2012年4月26日木曜日

フジツボのおもしろい生態


 潮の引いた岩場にびっしりと付着しているフジツボ。一つひとつは山の形をしており、頂上に穴があいた壺状で、藤壺と名付けられたのだという。貝の仲間と思っている人が多い(実際、昔は生物学界でもそう思われていた)が、実はカニやエビと同じ甲殻類に属する。その証拠に磯あそびでは時々「フジツボの脱皮殻」も見つかる。


普段目にする海面上の姿は休息中で、じっと動かずに潮が満ちるのを待っている。水に浸かると頂上部分のフタが左右に開いて、そこから蔓脚と呼ばれる脚を「熊手」のように広げて出し入れしながら、プランクトンなどのエサを集めるのだ。移動はしないので、この動きを見ないと動物だとは思えない。盛んに蔓脚を動かす姿は、観察会でもなかなか見てもらいにくいが、たまたまゴロ石に付着したフジツボを水槽に浸けてみると、潮が満ちてきたと思ってエサ集めを始めてくれることがある。「生き物が、本当に生きていると実感する」というのは、とても大事な体験だ。


想像してみてほしい。あなたは背中を岩に接着して身動きがとれない。目の前を漂っているエサに手を伸ばしてつかみとり食べる。死ぬまで毎日これである。でも子孫は残さなければならない。海の生き物では、メスの放卵とオスの放精による体外受精はよくある話だが、フジツボの場合は意外にも交尾をするのである。さらに不思議なことにフジツボは雌雄同体であり、すべての個体はオスでもありメスでもある。それなら自家受精ができるのかと思うがそうではなく、わざわざ交尾するのだ。動けないのにどうやって?


想像してみてほしい。あなたは男でもあり女でもある。あなたが背中でへばりついているすぐ隣には、男でもあり女でもある別の個体がへばりついている。肩と肩は触れ合っていても、手を伸ばすことさえできない。でも大丈夫。交尾の時には雌性生殖器がぎゅーんと伸びて、隣の個体に届き、精子を送り込むのである!もちろん自分にもまわりの個体から生殖器が伸びてきて精子が送り込まれ、それで自分の卵を受精させる。隣近所にはたくさんのフジツボがいるので、お互いに精子を配りあうのだが、いろんな相手に対してオス役をしつつメス役をするのはきっと忙しいことだろう。一説では生殖器は体長の8倍も伸び、それは動物界一の比率なのだそうだ。そこまでして体をしっかり固定して波あたりの強い環境に適応してきたというわけである。


交尾のあと、受精卵はノープリウス幼生となり海に放出される。1ヵ月ほど波間を漂った後、キプリス幼生になり、一生を過ごすのに適した場所を見つけて固着生活に入る。この時に大事なのはすでに固着している同種個体の近所にへばりつくことである。確かに、ご近所さんがいないことには死ぬまで交尾ができない。幼生とはいえ、交尾のことまで考えて場所を選んでいると思うとすごい。
キプリス幼生


大型のフジツボは食用にもなり、甲殻類というだけあってエビに似た味がする。食べる機会があればぜひ味見をしてほしいし、同時に6対ある蔓脚と動物界一の生殖器をじっくりと解剖してみてほしい。

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