2011年4月8日金曜日

磯あそびの下見


4月16日の観察会の下見に行きました。加太の城ヶ崎。この下見は特別バージョンで、別の団体の観察会を兼ねて実施したため、なかなか賑やかになりました。総勢30名くらい。寒かったです。

池辺先生に、十何回目かの磯の生きものの解説をしてもらいました。新しいスタッフが増えるたびに、先生は基本的なことから一つひとつ説明してくださいます。陸に一番近いところから順番なので、まずはタマキビという水に入らない小さな巻き貝。1センチ以下の石ころのような乾いた殻が無数にあり、これがすべて生きていて、エサを食べ、オスとメスがあり、卵を産む時だけ水に入り、赤ちゃんは海の中で成長し、ある時期が来るとまたどこかの海岸に定着して大きくなるのです。

磯の生きものは、想像を絶するような生き方をする、と感じることが多いです。ヤツデヒトデという生きものは、8本の腕のあるヒトデなのですが、ある時4本ずつに分裂して、分かれたところからまた新しく補充の4本が生えてきて、8本に戻るのです。8本の腕のうち、4本が長く、4本が短いのが見つかったら、これは分裂して間もない個体ということになります。これがけっこう見つかるのです。10センチ近くもあるいいおとなが分裂するって、すごいと思いません?私が今日から2人になったら、びっくりするでしょう?

2ミリほどの小さな白いウズマキゴカイというのが石の裏にびっしりと付いています。これも1つひとつがおとな(成体)で、渦巻き型の巣を作り、その先からエラを出して、ざるのように水中のエサを集めて食べています。もちろんそこまでは目では見えないのですが。たくさんの個体が石の裏について真っ白になっていると思ったら、その上にだいだい色の2ミリくらいの大きさの何かが付いています。これはウズマキゴカイだけを食べるオカダウミウシという生きものです。その隣に、同じ色のもっと小さい粒つぶが、1ミリの中に6粒くらい集まっています。これはオカダウミウシの卵です。そんな調子で、小さいものを見はじめたらキリがありません。

さわちゃんが、大発見をしました。だいだい色の美しいアカエラミノウミウシを2匹見つけました。これは最高に美しいです。4月16日の本番にも、参加者に見せてあげられたらいいと思いますが、これはわかりません。ここではかなり珍しいのです。このウミウシ、蓑のように見えるエラをふさふさと備えているのですが、実はこのエラの先には、毒針が付いています。ミノウミウシは、イソギンチャクだけをエサにしており、食べたイソギンチャクの毒針を、体の中を通ってエラの先まで運び、自分の身を守るために内側から植えるのだそうです。イソギンチャクをハサミや貝殻にくっつけるカニやヤドカリがいますが、これはまあ人間として理解できる生態です。それは外側から体にくっつけるからです。このウミウシは、内側から!スイカの種を食べたら背中から芽が出るぞ~の世界ですよこれは。やっぱり常識では考えられないでしょ!

今回初めて見たものは他にもあって、それは「フナムシの脱皮がら」です。フナムシは、上半身と下半身を別々に脱皮するのです。見つけたのは上半身の脱皮がら。なぜか、だいだい色をしていて、美しい。今度はきっと、下半身の脱皮がらを見つけてみたい・・・。嫌われ者のフナムシは、いつもたくさんいて、すべてのフナムシがこんな風に脱皮しているのに、それが15年目にして初めて見つかるなんて、これも何か秘密があるに違いありません。

こんなふうに、磯には、驚異の世界が広がっているのです。

道生画伯によるアオウミウシ
レイチェルカーソンは海洋生物学が専門でした。彼女の『センス・オブ・ワンダー』という発想は、きっとこういった海の生きものの驚くべき生きざまに出会った時の「ワンダー」から生まれたのではないかなあ、と勝手に想像しています。磯は『センス・オブ・ワンダー』を最も感じられる場所と言っても過言ではないと思います。

観察会のタイトルは15年前から「さがそう!海のたからもの」です。これがぴったりです。

今回、新しく、写真入りのチラシを作ってみました。新しいコピーも考えました。


さがそう!海のたからもの

ヤドカリ、カニ、ウニ、ヒトデ、ナマコ、イソギンチャク、ウミウシ、アメフラシ…
潮(しお)が引いて海からあらわれた磯(いそ)で、
「名まえは知っているけど、今まで見たこともさわったこともない…」
そんなフシギな生きものをさがして、見つけて、楽しく遊びましょう。
今年はタコは採れるかな? 生きものの実験もあるよ!


せっかくの機会なので、できるだけたくさんの人を誘って、生まれて初めての感動体験をしてもらいたいです。

2011年4月1日金曜日

ヤドカリのおもしろい生態

 ヤドカリについて書いたので、読んでください。

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 「大好きな貝殻拾い。どれだけ拾ってもタダ。誰にも迷惑をかけない」と思っていたら、「拾わんといて!」と叫ぶ声が…。エビやカニの仲間のヤドカリは隠れ家である貝殻を自分では作れない。彼らの祖先は私と同じく山のように落ちている貝殻に目をつけ、拝借することにした。その住みかを背負って持ち歩き、成長に合わせてより大きい殻に引越しを繰り返す。自分で家を作り続ける巻き貝に比べると楽に住みかを手に入れているように思うが、実際はその住宅事情も結構厳しいようだ。

 磯で宿無しヤドカリが時々見つかる。貝殻を目の前に置くと少し調べて、素早く入る。少々合わなくても宿無しよりはいいと見える。しかしまた別の殻を置くとすぐにはさみで計測し、気に入ると引越しする。しばらくして元の殻に戻ることもあり、「住んでみないと住み心地はわからない」とでも言いたげなこだわり派である。引越し前の殻は置きっぱなしだが、すぐに他の誰かが品定めに来る。ヤドカリの住みかはいつも満員で、「引っ越したいけどいい物件がない」という入居待ち状態だ。

 ある時、ヤドカリを何匹か入れたバケツから「カンカン」と大きな音が。1匹のヤドカリがもう1匹に貝殻を打ちつけている。音の大きさからしてかなりの衝撃。やがてやられた側は裸で飛び出し、やった側は残された殻に引っ越して「どうだ」みたいな顔。擬人化はよくないが、これって「地上げ」だよなー。夢のマイホームをめぐっては、ほんといろいろなドラマがあるようだ。

 カニはハサミで身を守る攻撃型、エビは素早さや遊泳力で勝負。ヤドカリは借りた殻に閉じこもり防戦一方で、殻がなければ生きていけない。殻から引っぱり出そうとすると体がちぎれてしまうくらい必死で殻にしがみつく。そんな彼らを無傷で貝殻から追い出す方法がある。「地上げ」と同じ要領で石などで叩くと出てきたりするが、経験上とても時間がかかる。私たちの観察会では“熱湯風呂”。フィルムケースのふたに穴をあけて熱湯を満たし、ヤドカリの貝殻の先だけを浸ける。手で支えていると、慌てたように自ら出て来る。少しでも驚かすとおびえてしまい、湯だってしまうから注意が必要である。

裸のヤドカリなんて普通の人は見たことがなく、命からがら逃げ出したヤドカリを見てみんな大喜び。おなかは柔らかく、貝殻の家にあわせて右に曲がっている。よく数えると脚もちゃんと5対あり、カニやエビと同数である。よく観察した後で、目の前に貝殻をおいてやる。お尻をさっと殻に差し入れ、素早く背負って態勢を立て直すのを見て、その必死さにまた歓声が上がる。

秋に多いのはオスがメスを連れ歩く姿。手をつないでいるかと思ってよく見るとオスははさみでメスの殻の縁をつまんで、引きずっている。実はこのメスは殻の中で卵を抱いており、間もなく幼生を海へ放出する時期。でもオスがイクメンなのかと思ったら大間違いで、メスが幼生を放出したら真っ先に次の交接をしようとキープしている姿なのである。計画通りに交接したらメスは置き去りに…メスはまた次のオスに連れまわされ…そうしてみんなで計画的に生きているということらしい。

 こうして放出された赤ちゃんは、プランクトンとして海を漂い旅をして、ほとんどが魚などのエサになりながらもやがてふたたび海岸へたどり着き、小さな貝殻を見つけて宿借り生活に入る。流行りのチリモンの中にヤドカリの幼生を見つけると、その長い旅が実感できるが、磯にいるすべてのヤドカリがそんな過酷な旅をしてきたのかと思うと畏れ多い。大阪にも本当にたくさんのヤドカリがいるので、もし出会ったらぜひじっくりとその“宿借り人生”を観察してみてほしい。